2016/07/31

博物館実習報告①

戸栗美術館ではこの時期に博物館実習生を受け入れています。
今年は2人の実習生を受け入れ、先日、無事に全日程を終えました。
学芸の課題として、実習生のお二人に現在出展中の作品のなかから1点選び、その魅力を各々ブログで語って頂きます。


 伊-570①
伊-570③
東京学芸大学・学部4年の青砥めぐみです。実習生として、戸栗美術館で6日間、学芸員の仕事を体験させて頂きました。
 現在、戸栗美術館では「古伊万里唐草―暮らしのうつわ―展」を開催しています。伊万里焼の定番の文様となった唐草と伊万里焼の変遷をみる展示です。そもそも、唐草文様は中国から日本へ伝わったと考えられています。その唐草文様が、伊万里焼ではどのように受容されたのかを「染付 山水文 鉢」(17世紀前期)から見ることができます。本作では縁にぐるりと、葉を点状に表した菊唐草文が描かれています。私たちが一般的にイメージする唐草文様とは一見異なる形をしていますが、連続して絡み合う植物の様子は唐草文様の特徴を備えていると言えます。
 さらに、本作は伊万里焼の唐草文様のはじまりであると同時に、伊万里焼のはじまりでもあります。そのため、胎土や釉薬などの原料の精製が不十分で、不純物を含むために全体が暗い発色となっています。また、焼成の際に中心がへたるのを防ぐために、34.7㎝の大きさがある鉢に対して、高台径が10㎝しかありません。見込には主題である山水文が描かれていますが、縁の唐草文様と同様に、その描画も素朴なものです。上記の特徴は初期伊万里の特徴としてよくみられます。
 磁器という新しい技術の芽生えの時期の作品であるため、今回展示されているものの中では最も技術の未熟さの残る作品であるかもしれません。しかし、私はこの「染付 山水文 鉢」は他にない魅力を持っていると思います。ガラス質の釉薬で覆われる磁器は、陶器と違い、艶やかで硬質な印象がありますが、釉にムラがあり、表面に粗さが残る本作は、磁器でありながら温かみを感じさせます。釉がかからずに、茶色に発色してしまった部分からは、冷たいガラスの膜を生むのが高熱の窯の仕事であることを思い出させてくれます。不純物による暗い発色も他の伊万里焼にはない滋味を感じさせます。
 また、素朴な絵付けは民画に似た自由闊達さがあり、遠景の配置も決して優れた空間構成ではありませんが、かと言ってアンバランスでもありません。小さな高台も安定感こそ感じさせませんが、器を支える役目を充分に果たしています。何もかもが絶妙なバランスで保たれており、その不完全さや不揃いな姿に後の時代の伊万里焼にはない魅力や面白さが宿っていると思います。未熟ではありますが、この後に古九谷様式、柿右衛門様式、古伊万里金襴手様式など華やかに進んでいく伊万里焼の歴史のはじまりにふさわしい作品だと言えます。
 上記で紹介したような初期伊万里から始まり、後は巧みな絵付けや文様で装われた伊万里焼ですが、伊万里焼を美術品として鑑賞するようになったのは明治時代以降のことです。それ以前は使うための器でした。本展は副題に「暮らしのうつわ」をとっており、美術品として観るだけでなく、昔の人はどう使っていたのか、自分ならどれを使ってみたいかなど考えてみると、より一層楽しめる展示だと思います。