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2019/08/13

博物館実習報告③

 博物館実習でお世話になりました、日本大学の金崎です。
 戸栗美術館の手作りの展示解説シートやウェブコラム「学芸の小部屋」のファンだったので、ここで実習ができてとても充実した時間を過ごすことができました。実習で行った内容から特に印象に残ったキャプション作成の作業について紹介します。キャプション作成は、作品について下調べをし、原稿を書き、正確なニュアンスでかつ読み飽きないような文章にするために何度も言葉の使い方を確認しました。300文字を書き上げるために込められた熱量を知ると、これからは作品だけではなくどのような想いを持って学芸員のみなさんがキャプションを書いているのかにも注目していきたいと感じました。
 今回は実習のプログラムで作品紹介ブログにもチャレンジしました。
 現在開催中の企画展『青のある暮らし―江戸を染める伊万里焼―』の中から選ぶ私のイチオシ作品は、「染付 獅子花唐草文 長皿」です。

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「染付 獅子花唐草文 長皿」 伊万里 江戸時代(17世紀末~18世紀初)

 まず注目していただきたいのが、長皿の見込に描かれている2頭の獅子の文様です。2頭は互いの尾を追いかけあうような構図で、その姿は対称に表現されています。

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 右の獅子は、高い鼻筋に大きく見開いた目、眉根をぎゅっと寄せた顔つきが特徴です。たてがみは、渦を巻いて迫力のあるボリュームを出しています。左の獅子は、丸い鼻で目と目の間が広く幼い顔つきをしています。ふりむきざまになびいたようなたてがみは、2頭の動きにつながりと躍動感をもたらしています。表情をみると右の獅子は口を大きく「阿」の字に開け、左の獅子は「吽」と閉じていて、ここでも2頭が対となる存在として描かれたことが分かります。
 視野を全体に巡らせると、獅子を囲む花唐草が目に映ります。多重に表現された花弁、尖った葉先に丸くふくらんだ葉の形から、この花が牡丹であると考えることができます。この牡丹唐草は、やや抽象的に花を描き、花の中央から外側に掛けて徐々に色を淡くしていく様子や、繊細な唐草の流れがひときわ美しい文様です。

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 本作の獅子と牡丹唐草からは可憐な印象を受けますが、実は獅子も牡丹も中国では力の象徴として好まれていました。百獣の王である獅子は、太陽の力や権力をあらわし、百花の王である牡丹は豪華な花の形から富貴をあらわすおめでたい組み合わせだったとされています。日本には、元来獅子のモチーフとなったライオンも牡丹もありませんでした。それでは、これらの文様がどのようにして日本に伝わって来たのかを簡単にご紹介いたします。
 獅子の文様の始りは古代ペルシアまで遡るとされています。ペルシアの地にはライオンが生息しており太陽の力が宿る聖獣として扱われていました。そののちに、シルクロードを旅し中国に伝わるのですが、当時のライオンを見たことのなかった中国の人々にはこの世に存在する動物とは思えなかったのでしょう。邪気を払う魔除けの力を持つ想像上の動物、獅子として描かれました。その結果、頭部・頸部・尾などは火焔状に渦巻く毛並みで表現され、ライオンとはかけ離れた姿になったのです。そして、陶磁器の文様や裂地に描かれ、唐風の架空の動物という存在として日本に伝わりました。
 牡丹は中国で吉祥文のひとつとして親しまれてきました。奈良から平安にかけて日本へ渡ってきた牡丹は、観賞用として宮廷や寺院で栽培され、平安後期には工芸作品などに意匠化されています。江戸時代に入り、牡丹が盛んに栽培されるようになると、美しい花が目に馴染むようになったのでしょうか。主要なモチーフとして多く文様に扱われるようになります。こうして互いに中国から伝わってきた獅子と牡丹という文様は組み合わされ、おめでたい雰囲気のものとしてあらわされました。
 今回、作品ブログの執筆を通して、第一印象のかわいらしいというだけではなく、長皿に描かれた獅子の個性や花唐草の繊細さに気が付くことができ、私はこの作品にとても愛着がわいて好きになりました。ひとつひとつ見ていくと、作品の繊細さや歴史などご自身のお気に入りのポイントが見つかることと思います。
 今展は、浮世絵専門の太田記念美術館との連携企画展です。伊万里焼の作品を浮世絵とともに紹介する幅広い内容となっています。『青のある暮らし―江戸を染める伊万里焼―』にぜひお越しください。
 指導してくださったみなさま6日間お世話になりました。ありがとうございます。


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以上3記事にわたって、博物館実習報告をさせていただきました。
実習中は時間が限られ、慣れない作業も多い中苦心しつつも、みなさん意欲的に取り組んでくださりました。
特に、子ども向けワークショップでは、実習で学んだやきものの知識を活かして子どもたちとコミュニケーションをとったり、子ども目線に立った細かい気配りをしたりと、積極的に動いてくださいました。
職員一同感謝申し上げます。

また、今回の博物館実習では、1枚1枚、作品キャプションも制作していただきました。
キャプションは次回展覧会『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅠ』内、特別展示室にて掲出いたします。
是非ご覧くださいませ。

末筆ではございますが、実習生のみなさま、6日間本当にありがとうございました。

(学芸員 上田)