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2019/08/10

博物館実習報告①

みなさま、こんにちは。
戸栗美術館では今年も3名の博物館実習生を迎え、先日、無事に全日程を終了いたしました。
実習中は、学芸業務からお客様対応、広報業務まで、多岐にわたる活動をしていただきました。
なかでも、作品を観察、調査し、その魅力を自分の言葉で伝えることは、学芸員の重要な仕事です。
そこで、今回のブログでは現在開催中の『青のある暮らし―江戸を染める伊万里焼―』出展品の中から実習生のみなさんが選んだお気に入りの作品について、魅力を紹介していただきます。

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 昭和女子大学の中島と申します。今回、戸栗美術館の学芸員実習でお世話になりました。
 実習期間中は、実践的な内容が多く、様々な体験をさせていただき、多くのことを学ばせていただきました。その中でも特に印象に残っていることはテグス留めです。展示中の陶磁器を守るためにとても重要な役割で、作業をしていくうえで“作品を傷つけない”ということを常に念頭に置き、丈夫かつ綺麗にテグスを張るという難しさに、学芸員の方の思いと熟練の技を感じました。
 今回の展覧会では『青のある暮らし―江戸を染める伊万里焼―』ということで“青色”が一つのキーワードになっています。染付という酸化コバルトを発色の主成分とした絵具で文様を絵付けた作品を主としています。一見同じような青ばかりでもその中で色の濃さや、文様、技法の違いにご注目いただければと思います。
 私が紹介するのは、「瑠璃釉染付 桐鳳凰文 鉢」と「染付 鳳凰花鳥文 八角鉢」です。二つの共通点としては、鉢形であり、鳳凰と花唐草文様があしらわれていることが挙げられます。鳳凰は古代中国で想像の瑞兆としてあらわされました。キリン、亀、龍とともに四瑞とされています。唐草は伊万里焼では定番の文様のひとつで、時代とともに形を変えて表現されてきました。縁回りや見込の背景など側面にも描かれ、大皿の随所に登場してきます。唐草には花唐草、蛸唐草、みじん唐草などの種類があります。今回紹介する作品二点には花唐草が用いられています。繊細な筆使いであらわされる優美さに注目していただきたいです。

 一点目の作品は「瑠璃釉染付 桐鳳凰文 鉢」です。第一展示室の単体ケースに展示されており、大きめの深鉢です。瑠璃釉といって、呉須を入れた釉薬をかけて濃くはっきりと色を出しています。見込には白抜きの鳳凰が描かれ、堂々とした姿がうかがえます。深鉢の大きさに負けないくらいの迫力があると感じました。伊万里焼では、17世紀半ば以降、鳳凰は桐とともに描かれることが多くなってきたと言い、本作でも黒っぽい発色の染付線で桐が左右に描かれています。そして側面には花唐草があしらわれ、蔓が伸びやかで側面一周が繋がって見えます。

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「瑠璃釉染付 桐鳳凰文 鉢」 伊万里 江戸時代(17世紀中期)

 二点目は「染付 鳳凰花鳥文 八角鉢」です。型打ち成形と呼ばれる、轆轤で挽いた素地を型に被せて叩き、型の器形を写し取る方法で作られています。見込には小さく鳳凰と火焔宝珠を描き、口部に細かく花唐草があしらわれています。この鉢自体が一つ目の作品よりも小さく、全体の絵付けも小さめです。しかし、その中でも鳳凰の凛々しさを見せ、細かい花唐草が鳳凰を引き立たせているようです。二作で違うところは大きさもそうですが、同じ花唐草でも描かれ方が異なります。八角鉢の花唐草ははじめ遠くから見ても何の文様なのか分かりにくいのですが、よく見るとびっしりと敷き詰められています。細密な描写で人間業とは思えないほどの線描きは高度な技術が必要だったとされます。熟練の絵付け職人ならではの妙技といえます。

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「染付 鳳凰花鳥文 八角鉢」 伊万里 江戸時代(17世紀後半)

 このように、同じ文様が描かれていても違った表現があるということをこちらの二点から見ることができます。また、同じ鉢でも大きさ、形が違うだけで印象も変わります。
 そもそも日本において大皿は桃山時代から江戸時代で上流階級に少しずつ浸透していきました。江戸時代前期には宴の中で菜を盛って見せるうつわとして盛んに作られたそうです。宴といっても儀式的なものだったでしょう。ご紹介した一点目の作品は大鉢であり、大皿と類似した使用の可能性が考えられます。ちなみに、料理料理文化の発達した江戸後期には大皿の性質が変容し、とくに19世紀には皿鉢料理といわれる鉢盛料理も広く流行したそうです。二点目については同時代の類品を調べてみると、英国の城に染付の花唐草文小鉢や色絵の松竹梅鳳凰文八角鉢などがあることから、本作も輸出品と考えられます。また、英国では実用のみならず収集品として扱われていた可能性もあります。このように、時代背景や国によって用途はそれぞれだったということを陶磁器とともに感じていただきたいです。皆さんなら鉢をどのように使いますか? ぜひ作品同士の違いを見つけつつ、江戸時代の人々の暮らしを覗きながらご覧いただきたいです。
 最後までお読みいただきありがとうございました。お忙しい中、丁寧に指導してくださった戸栗美術館の皆様に感謝申し上げます。