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2017/07/30

博物館実習報告③

専修大学大学院文学研究科歴史学専攻から参りました、奈良竜一です。将来、学芸員を目指しているので、今回戸栗美術館で実習をさせていただいています。実習で特に印象に残っていることに、展示をするとき、作品が動かないようにテグスで止める作業があります。そのテグス留めが非常に難しく苦労しましたが、とても楽しかったです。

私が紹介したい作品は、伊万里焼の「染付 鮎文 輪花皿」です。17世紀後半の作と推定され、類似品の存在も伝わっています。他の古伊万里と同様に商品として流通していたと考えられます。また、よく観察してみると、見込部分にスレがあり、実際に使われていたのではないかと思います。どんな料理が盛られていたのか気になります。

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↑「染付 鮎文 輪花皿」17世紀後半 伊万里

さて、見込の周りに目を向けてみますと、陽刻(凸による文様表現)と濃染め(だみぞめ)で水流や渦が表現されています。白波は陽刻で表現されているため、見込と比べてもこもことした立体感があり、光が当たると実際に水の流れを感じるかのような躍動感を味わうことができます。
さらに、見込部分に目を移してみると、目のまん丸い愛嬌のある鮎が3匹泳いでいるかのように描かれています。3匹は、染付により、腹部分と背中部分で濃淡がはっきり分けて賦彩され、そのほか、背びれや口が「染付 鮎文 長皿」(17世紀後半 伊万里)と比べて小さく、リラックスした鮎の「日常」の姿が想像できます。ちなみに鮎は縄張り意識が強いらしく、餌場に外敵が侵入してくると突進して追い払うそうです。そのため、きっとこの3匹は仲良しなのでしょう。
裏面には葡萄文が描かれ、見込の魚文と同様に多産を願う意味が込められています。当時の人々の祈りが聞こえてきそうです。

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↑「染付 鮎文 輪花皿」背面

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↑「染付 鮎文 長皿」17世紀後半 伊万里

「染付 鮎文 長皿」は、渦巻く川の中を泳ぐ2匹の鮎がヒレを立てて描かれ、厳しい自然の中を生きる鮎の活き活きとした姿が描かれています。同じ鮎から取材したお皿でも、大分違う描かれ方をしているのはとても興味深いです。ちなみに、この2つの作品は、現在開催中の企画展『17世紀の古伊万里―逸品再発見Ⅰ―展』で、第1展示室にて隣同士展示していますので、ぜひご覧ください。

さてここからは、魚文の愛らしい目の表現について少し触れてみたいと思います。実は、愛嬌のあるまん丸の目の表現は先に述べた鮎文だけでなく、様々な魚文や動物文でもみられます。

例えば、古伊万里に先行する中国・明時代の「青花紅彩 魚藻文 壺」を見てみると、先にあげた鮎文皿と同じくまん丸の目をしています。しかし、黒目の位置が前方にあり、魚自身が見たい方向に視線を向けているような印象があります。そのため、こちらの作品は、水中をのびのびと泳ぐ自由さを感じられる表現になっています。

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↑「青花紅彩 魚藻文 壺」明時代 嘉靖(1522~1566年)景徳鎮窯

「青花紅彩 魚藻文 壺」のような作品には、同意匠のものが多く、当館所蔵品で言うと、例えば「五彩 魚藻文 壺」などがあります。

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↑「五彩 魚藻文 壺」明時代 嘉靖(1522~1566年)景徳鎮窯

この2つの作品では、水生植物とともに魚が活き活きと泳いでいる様を感じることができます。

さて、古伊万里では、魚文の絵付けだけでなく魚の形をした作品もあります。

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↑「染付 魚形皿」17世紀中期 伊万里

「染付 魚形皿」は鱗の装飾もさることながら、目に注目してみますと、まん丸で陽刻になっています。また他の作品との大きな違いは、目の輪郭線が強調されているところです。まるで本物の魚がこちらを見ているような生命の力強さを感じます。どのような場面でこの皿が使われていたのか、とても気になります。
このように同じ魚文の描かれた作品でも、例えば今回のブログのように、目に注目するだけでも色々な感じ方ができます。目だけでなく、魚の姿や魚の泳いでいる風景などに注目しても、とても面白いと思います。

これから、連日暑くなると思いますが、皆様の「逸品」を探しにぜひ戸栗美術館へお越しいただけたらと思います。ありがとうございました。

(専修大学大学院 奈良竜一)






以上3記事にわたって、博物館実習実施報告をさせていただきました。
実習中はみなさん意欲的に取り組んでくださり、慣れない環境のなか、それぞれの専門も学年も異なる方々が、互いにコミュニケーションをとりながら団結して業務にあたっていらっしゃるご様子が印象的でした。
積極的に動いてくださり職員一同感謝申し上げます。

さて、今回の博物館実習では作品キャプションやイベント開催時の門立て看板用掲示物も制作していただきました。
キャプションは次回展覧会「18世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅱ-展」にて展示いたします。
また、各掲示物は「やきもの展示解説 入門編」期間中(8/1~8/6)各人2日ずつ掲示し、さらに「とぐり式 お宝の包みかたを学ぼう」期間中(8/11~8/13)各人1日ずつ掲示いたします。
皆様、是非ご覧くださいませ。

末筆ではございますが、実習生のみなさま、6日間本当にありがとうございました。

(学芸員 小西)
2017/07/30

博物館実習報告②

はじめまして。東京学芸大学の石井紗輝と申します。今回、戸栗美術館で学芸員実習をさせていただいております。
学芸員実習では大変多くのことを学ばせていただいております。特に、作品を展示する際に固定するテグス張りの体験はとても難しかったです。学芸員の方は慣れた手つきでお手本を示してくださいましたが、実際に体験してみるとテグスの張りを保ったまま作品を固定するのが難しく、自分の不器用さも相俟ってなかなか上手にできませんでした。陶磁器を扱う美術館ならではの体験をさせていただきました。

今回ブログを執筆するにあたり、現在開催中の『17世紀の古伊万里―逸品再発見Ⅰ―展』より、私が特に印象に残りました「染付 兎形皿」について紹介いたします。
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「染付 兎形皿」(図①)は第2展示室入って右手に展示されております。本作品は遠くから見ると一見丸い小皿の組食器に見えます。しかし近づくと小皿全体が兎を象ったものであることが分かります。兎の身体は向かって右方向に向いていますが、首をくるっと左に向け丸まっているように表現されています。耳は中央の顔から左右にのびる様に描かれており、構図の大胆さが窺えます (図②)。
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5客とも、素地に型を押しあてて兎の形を作ったと推定されます。兎の輪郭が滑らかな凹凸によって表現されています。ぷっくりとした愛らしい丸い目が特徴的です。全体として優しげな印象を受けます。

この兎形皿の作られた17世紀後半は、伊万里焼の技術が最高潮に達した時期です。本作品で使用されている染付技法も高い技術に達し、それは本作品からも見て取れます。本作品の輪郭線は均質で細かく、腹部や首、耳の先端、足先、背中に施された繊細な毛並みは、兎の愛らしさを際立たせています(図③)。また、何といってもこの美しい染付の青色のグラデーションは、兎の立体感をその造形と相俟って絶妙なバランスで表していると言えるでしょう。親しみやすい上品さのなかにも、技術の高さを垣間見ることができます。
石井③



ちなみに、兎形皿の裏面には、波文様が描かれています(図④)。兎と波文様と合わせて「波兎」を表現しているうつわなのです。波兎というのは、因幡の白兎の神話や、謡曲・竹生(ちくぶ)島にある「月海上に浮かんでは、兎も波を走るか面白の浦の景色や」を意匠化したものとされています。慣習的に耳が長く描かれることが多く、本作品も耳は長めに描かれています。
裏面を見て波兎の意味することを理解できる江戸時代の人々の教養の高さと、裏を返して真の意味を知ることができる粋な造りに感嘆します。
石井④



今回紹介しました「染付 兎形皿」は、小さいながらもぎゅっと魅力の詰まった作品です。しかし、その大きさや薄さ、色合い等は、写真では伝わらない部分も多くあります。是非ご来館いただき、ご自身の眼でより多くの魅力を見つけていただけたらと思います。
最後まで読んでいただき有難うございました。
お忙しい中、丁寧に指導して下さった戸栗美術館の皆様に感謝申し上げます。

(東京学芸大学 石井紗輝)
2017/07/30

博物館実習報告①

戸栗美術館ではこの時期に博物館実習生を受け入れています。
今年は3名の実習生をお迎えしました。
その中の学芸業務体験の一環として、実習生に現在開催中の展覧会『17世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅰ-展』出展作品のなかから1点選び、その魅力を各々ブログで語って頂きます。





成城大学文芸学部芸術学科3年生の真柄雄です。この度は学芸員の実習生として戸栗美術館にお世話になっております。
そのコレクションの中で、最も印象に残った美術品をご紹介します。それが、「染付 梅樹山水文 瓶」です。
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この作品は、17世紀前半に作られた初期の伊万里焼です。なぜ印象に残ったかというと、この作品の持つ「美しさの要素の構造」に惹かれたからです。では、その要素について説明したいと思います。
まず、この作品の文様の色についてです。この文様の青色の発色は、染付によるものです。染付とは、呉須と呼ばれる酸化コバルトを主成分とする絵具で絵付けする技法のことを言います。そして絵具は、水で溶く濃度や、酸化マンガン・酸化クロムなどといった金属化合物の成分量、また焼成中の窯の中の状態など様々な条件によって色合いが左右されます。本作の文様の色からは、青と呼ぶには薄く、水色と呼ぶには落ち着いた淡い色合いがみられ、清楚で凛とした印象を受けることでしょう。
次にこの作品の艶は、素地の上にかけられるガラスの膜である釉薬によって表れています。それにより、光の当たっていない場所からは、淡くかわいらしい印象を受けるのと対照に、光が当たっている場所からは、色っぽく艶やかな印象を受けることでしょう。
一方上記の印象に対し、この作品の造形は、畝を残し、8面に削り出されたことから、ゴツゴツとした武骨なものとなっています。
四方図_小西作成



この「武骨なのに清楚」、「清楚なのに色っぽい」、「色っぽいのに武骨」という美の構造は、現代の言葉を借りるのであれば「ギャップ」などと呼ばれるのでしょうか。またその構造に加え、見る角度によって描かれた梅樹や山水文、また無地の部分の塩梅が変わるという多面体の特性も兼ね備えています。このように、特徴的な造形によって感じ方が変わる面白さというのもこの作品の魅力の一つでしょう。
以上の通り「どこを見るか」または「どう見るか」など、見方によって作品は様々な姿を見せます。その一方で「今日は落ち込んでいる」または「今日はうれしい」など、その時の気分によっても作品が、全く違った表情を見せるということが往々にして起こりえます。「作品が多くの表情を持つのと同じように、来館されるお客様も様々な表情を持っている」。これは、実習3日目の受付業務体験の際に私が感じたことですが、「作品の表情」と「作品の見方」というまるで巨大なパズルのピースのようにあちこち散乱しているものが、ある偶然で「パチン」とはまったときに人は「美しい」と思い、快感を覚えるのでしょう。そして快を求めて美術館へ足を運ぶのでしょう。その快を一人でも多くの方々に与えられるよう手助けをするという学芸員という仕事に、改めて尊敬の念を覚えました。

(成城大学 真柄雄)
2017/07/11

やきもの研修旅行 第3回「九州のやきもの 波佐見焼」

太陽のまぶしい季節となりました。皆様お変わりございませんでしょうか。

4月よりやきもの研修旅行の様子をご報告して参りました。
本記事では、九州の窯業地である波佐見町のおすすめスポットをご紹介していきます。


長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)郡波佐見町は江戸時代から今日に至るまで約400年にわたって続く窯業地です。
そして、この地域で焼かれたやきものを波佐見焼といいます。
波佐見町には、江戸時代から残っている窯址や、波佐見焼の今昔がわかる施設など様々な見所があります。



【波佐見町おすすめスポット3選】

1.陶芸の館『観光交流センター』
やきもの公園の一角にある施設。2階が波佐見焼の資料館となっています。
波佐見焼のはじまりから発展、流通、現在までの流れが詳細かつわかりやすく解説されており、知識の深度に関係なく楽しめる施設です。現代の伝統工芸師の作品も展示しており、まさに波佐見焼の今昔をつかむのに最適な施設です。


2.中尾山
1644年頃から陶業がはじまったとされる中尾山。世界最大級の登り窯2基を有するやきものの里です。
現在では約20程の窯元や商社があつまり、日々活発に磁器生産を続けています。
中尾山にも、もちろん磁器にかかわる施設があり、とくに「中尾山交流館」では中尾山の窯元製品すべてをみることができます。


3.江戸時代の遺構
波佐見町には大型の窯場や磁石場が残っており、町中を散歩するだけでもたのしいものです。とくに世界最大級の大きさを誇る窯のうちの2つ「大新登窯」、「中尾上登窯」は中尾地区にあります。磁器の町の景観と併せて、ぜひご覧ください。
また、波佐見青磁の産地、三股地区では1660年代に設置されたとされる皿山役所跡や、当時の磁石場が残っています。ご探訪の際には是非足を伸ばしてみてください。

以上、波佐見町おすすめスポットをご紹介いたしました。



ところで、現在戸栗美術館では2階特別展示室にて「九州のやきもの 波佐見焼」と題したパネル展示を行っております。
波佐見焼のはじまりから現代までの流れをご紹介しております。現在開催中の展覧会「17世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅰ-展」と併せてお立ち寄りくださいませ。

皆様のご来館を心よりお待ち申し上げております。

(学芸員 小西)
2017/07/01

7月の予定

一雨ごと夏が近づいておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、当館の7月の予定をお知らせ致します。


『17世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅰ-展』開催中です。(~9月2日迄)

○月曜日休館 ※7月17日(月・祝)は開館、7月18日(火)は休館
○毎週金曜は20:00まで開館いたします(入館受付は19:30まで)。
○毎月第4月曜日はフリートークデーとして開館いたします(6月26日・7月24日・8月28日)

「うつわを見る」時、皆様は何に注目されるでしょうか。何焼であるか、何に使うものか、あるいは色や文様などでしょうか。これらの他にもやきものには実に多くの見所があります。特に17世紀は伊万里焼の歴史の中でも誕生と技術革新によって多用な作品が生み出された時代です。一様ではないうつわの違いを、一歩踏み込んで考えながら観察していると、ふと新たな一面を発見できることがあり、作品が急に自分だけの「逸品」になるかもしれません。今展では「かたち」や「素地の白」など15のテーマのもとに個性豊かな約70点を展示しております。じっくり観察しながら皆様のお気に入りの「逸品」を是非探してみて下さい。

第3展示室同時開催『磁器生誕から100年の変遷』(~9月2日迄)

初期の伊万里焼から技術が爛熟する元禄期までの100年の変遷を各様式の特徴に沿ってご紹介しております。
徳川将軍家への献上を目的に創出された鍋島焼も展示しておりますので、併せてご鑑賞くださいませ。

1階やきもの展示室同時開催『第3階 望月優作品展~今と昔をつなぐ~』(~9月2日迄)

陶片をモチーフに“今と昔をつなぐ”をテーマに器を制作。
伝統技法の轆轤、型打ち、上絵、下絵などを使いながらも、今を表現する器。
遊び心がある器を展示いたします。


展示の詳細はこちらをご覧下さい。


■とぐりの学芸員講座
 「館蔵品に見る朝鮮陶磁入門」(当館学芸員 小西 麻美)


やきもの鑑賞をより楽しむためのポイントを当館学芸員がご紹介する講座です。
日時:7月3日(月) 午後2時~
所要時間:90分程度
参加費:500円(入場券は別途お求め下さい)
定員:30名(先着順)
参加方法:要事前予約。往復はがきに住所、氏名、電話番号、希望日時(※)を明記の上、お申し込み下さい。定員になり次第締め切りますので、お申し込みはお早めに。



■フリートークデー(7月24日)


毎月第4月曜日は、館内でのお話をご自由にお楽しみいただけるフリートークデーとして開館致します。
通常開館日と同じく、どなたでもご来館いただけます。
当日は午後2時より学芸員によるミニパネルレクチャーも開催致します。


■7月展示解説日程
 【第2・第4 水曜日 午後2時~】
   7月12日・26日
 【第2・第4 土曜日 午前11時~】
   7月8日・22日

いずれも所要時間 は40~60分程度。予約不要です。入館券をお求めの上、ご自由にご参加ください。


皆様のご来館を心よりお待ち申し上げております。